EVP セールス/アライアンス 平林 良昭氏
※インタビュー当時の役職
DX推進を阻む“サイロ化問題”突破口はデータの「関連付け」と「意味づけ」
世界の投資家も注目するCognite AS社(本社:ノルウェー、共同創業者兼CEO:ジョン・マーカス・ラービック、)は2016年にノルウェーで設立された。
製造業、エネルギー、インフラ産業など重厚長大企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)をサポート。資産管理のデジタライゼーションを促進するSaaS/PaaSプラットフォームを提供している。
その日本法人Cognite株式会社(以下:Cognite)社長の徳末哲一氏、EVP セールス/アライアンスの平林良昭氏に、変化の必要性に直面している現場の「サイロ化問題」にどう切り込んでいくのか、データ活用の可能性について伺った。
短期間で「見える化」クライアントからは「夢みたい」と反響も
例えば、PC内に収められた工場内の発電機の写真をクリックすると、いくつものデータが現れる。購入したのはいつか。担当者は誰か。いくらで買ったか。残存価値はいくらか。どのくらいの発電量があるか。どこに提供されているか……。発電機に関わる、ありとあらゆるデータが、クリック一つで見られるのだ。
徳末氏:
「それこそ現場では、夢物語が現実になった感じだ、と言われます。クライアントのエンドユーザーに見てもらうと、本当に感激される。こんなことまでできるようになるとは思わなかった、という反応をいただくことが多いですね。それこそ、SFみたいなことができる時代になったんだ、と」
こう語るのは、Cogniteの徳末哲一社長だ。
そのポテンシャルには、シリコンバレーのベンチャーキャピタルもいち早く気がついていた。フェイスブックのイニシャルインベスターだったAccelや、ネットフリックスのアーリーインベスターだったTCVなど、数十億円から数百億円の投資をしているベンチャーキャピタルもCogniteに出資している。
徳末氏:
「推定の時価総額は、創業5年ですでに1700億円を超えたと言われています。ノルウェー初のユニコーン企業が、Cogniteです」
創業者のジョン・マーカス・ラービック氏は、ノルウェーでは有名な起業家だ。かつて立ち上げたIT企業は、後にマイクロソフトに買収された。自身もマイクロソフトで執行役を務めたが、退任。その後複数の企業を設立した後、2016年ノルウェーでCogniteを設立した。
徳末氏:
「ノルウェーといえば、国民を豊かにしていることで知られるのが、北海油田です。ところが、石油化学は中長期の低迷傾向にあった。そこで北海油田の探索会社であるAker(アーカー)のCEOが、Cogniteの創業者に相談に来たんです。一緒に何かやろう、と」
そして半年後、生まれたアイデアが重厚長大企業向けのビジネスだった。
本社から、世界中の機械の状態がわかるようになった
石油掘削を手がける企業は、数百億円から1兆円ものハードを持っている。この資産のDX(デジタルトランスフォーメーション)に、大きなポテンシャルがあると気づいたのだ。
徳末氏:
「こうして巨大企業のAkerとイギリスのBPとの合弁会社AkerBPが7割を出資して生まれたのが、Cogniteです。主な特色は、企業が抱えるデータを利用して自社の設備のデジタルツインを作成できる点です」
デジタルツイン(デジタルの双子)とは、リアル空間から取得した情報をもとに、デジタル空間にリアル空間の双子(コピー)を再現する技術だ。再現することであらゆる場面において、事前のシミュレーションや分析・最適化を行い、リアル空間に生かすことができる。
徳末氏:
「例えばGoogleでは、ユーザーが投稿する情報を反映することで、Googleマップのデータをリアルタイムで更新し、最新の混雑状況や店舗情報を提供しています」
ビジネスに柔軟性や即時性、環境変化への対応力が求められる中で「デジタルツイン」はGAFAがそうであるようにキーテクノロジーの一つとなっている。
Cogniteが考えたのは、デジタルツインを重厚長大産業の固定資産で実現させること。ただ、GAFAが扱う消費者から集めたデータと、産業分野で集められたデータの性質は異なる。消費者から無料で収集したデータには「意味」が欠如している場合があるからだ。
そこでCogniteは収集したデータに「関連付け」を行い、「意味」を持たせることで製造業など重厚長大産業分野の生産性向上を実現している。
徳末氏:
「Cogniteに対する期待の高さから、世界中から優秀な人材も集まってきました。数十人がプロトタイプを作るためにアジャイル開発をスタートさせ、2年もかからず、重厚長大資産のデジタルプラットフォームを完成させました」
デジタルになれば、世界のどこでもデータを読める。誰とでもシェアができ、好きなときに取り出せる。ある工場の装置が今、どんな状況にあり、どんな出力になっているのかが、すぐに把握できるのだ。
徳末氏:
「現場にいなくても、それができるようになった。本社から、世界中の機械の状態がわかるようになったということなんです」
脱サイロ化で企業文化も変えていける
しかも、単にデータが入力されているだけではない。DateOps(データオプス)が実現できる基盤が提供されるのだ。EVP セールス/アライアンスの平林良昭氏はいう。
平林氏:
「データオプスとは、データを管理する人と、データを使う人が連携して、迅速にデジタルを活用できることです。工場などでは、今も多くのデータがあります。しかし、それはサイロ化されてしまっているんです」
いろんなデータが、バラバラに管理されてしまっているのだ。
平林氏:
「分かれて保管され、連携がとれていないことが多いんですね。だから、何かを分析しようにも、データを取り出すのに時間がかかったりする。Cogniteのプラットフォームでは、集められたデータは関連付けられ、意味づけられます。利用者が簡単に目的としているデータにたどりつけて、データを抽出して、活用できる状態にできるのです」
これは工場だけの問題ではない。例えば、経理データは経理が持っており、売上高のデータは経営企画部門が持っていたりする。
徳末氏:
「データを持っていることが、その組織のバリューになってしまっていることがあるんです。これが、サイロ化の要因なんです。でも、これではデータは生きてこないし、バリューも高められない。すべてを民主化し、オープンにすることで、本当のデジタライゼーションになり、企業の変革に結びつけられるんです」
データオプスの実現で、生産性向上と競争力を高められるだけでなく、企業文化も変えていけるというのだ。
徳末氏:
「実際にノルウェーでは、プラントの運用で、風土変革まで含めた大きな価値を生み出すことに成功しています」
日本の製造業を再活性化させる方法とは?
データは数字だけではない。テキスト、3D情報、映像など、いろいろな情報を基板上に取り込める。
平林氏:
「取り込んだ情報は、機械学習によって関連付けられ、コンテキスト化され、保存されます。自動的に関連付けられ、データを整理できるんですね。また、オープンなAPIですから、データを取り込みやすいんです」
Akerの自社での取り組みが世界に知られると、世界最大の石油会社・サウジアラムコやエクソンモービルが興味を示すに至った。アメリカのテキサスに最初の拠点を展開。そして2つ目の世界拠点となったのが、日本だった。
徳末氏:
「日本には、石油の上流を手がける企業はありませんが、21世紀の前半まで世界を席巻した製造業があります。実は重厚長大産業のマーケットは、とても大きいんです。日本の製造業をどうやって再活性化させるか。そこでCogniteのプラットフォームを使ってもらえたら、と考えたんです」
重厚長大産業の設備は膨大だ。一つの工場だけでも数百万ものセンサーがあるという。だが、Cogniteは製造業の工場の専門家ではない。そこでCogniteが考えたのは、パートナーと手を結ぶことだった。まずは大手プラントメーカー。さらには、製造業のコンサルティング企業。
徳末氏:
「Cogniteが提供するのは、わかりやすいアプリケーションを一つ入れる、というものではないんです。全体を貫き、全体でバリューを生み出すプラットフォームなんですね。それを理解いただくためにも、パートナーと一緒にエコシステムを作っていくことが大事だと考えました」
すでに日本の大手化学メーカーへの導入が始まっている。紙で管理され、まさにサイロ化されていたデータの結合や活用が目的だったという。
徳末氏:
「とても喜んでいただけています。AIを活用して、半自動的にデータの関連付けが行われているところが、特に気に入っておられるようです。手応えは大きいですね」
重厚長大産業の日本のマーケットは巨大だ。今もプロジェクトが次々に進んでいる。
魅力はオフィスの持つ「クレディビリティ」
徳末氏と平林氏は、創業者のラービック氏がかつて起業した会社の日本法人に勤めていた。その会社がマイクロソフトに買収された後も、そのまま一緒にジョインした。後に3人別々のキャリアを歩むことになったが、2019年Cogniteの日本進出にあたり、再び声をかけられた。EGG JAPANをオフィスに選んだのには、理由があった。
平林氏:
「実は私が前職で代表を務めていた会社が、2015年からここに入っていたんです。ちょうどその会社が、買収によって出ることになり、このオフィスの魅力はよくわかっていましたから、Cogniteもここがいいだろうと考えたんです」
何よりの魅力は、その立地だという。
平林氏:
「私たちは大手商社と連携することも多いんですが、石油関連企業や化学メーカーなどのお客さまも含めて、関わる会社のほとんどの本社がこのあたりにあるわけですね。もちろん、交通のアクセスもいい」
通常のベンチャーのスタートアップであれば、キャッシュフローマネジメントが厳しく問われ、小さなオフィスから始まることも多いようだが、巨大な親会社がいるCogniteでは、その心配はいらなかった。自身、いくつものベンチャーの立ち上げに携わった徳末氏はこう語る。
徳末氏:
「実はそれが意外と成長の足枷になってしまったりするんです。スタートアップは何度もやっていますが、マンションの一室からのスタートでは厳しい。ここは、陣容が大きくなれば、部屋を拡張していくこともできます。また、何より実感しているのは、オフィスの持つクレディビリティです。それこそ知名度が高くなければ、どこの馬の骨かわからない。しかし、新丸ビルに入っているというだけで、信頼度は一気に高まる。この効果は思った以上に大きいですね」
平林氏:
「三菱地所が運営していますから、三菱グループの別の会社を紹介してもらえたりもします」
まだ20人に満たない従業員数だが、エンジニアの半数以上が東京大学などの修士卒。ドイツで学んできた人材もいるという。
日本での簿価が数百億円以上の工場プラントには必ずCogniteが入っている。そんな状態にすることが、中長期の目標だ。
CETEC 2021 ONLINE オープニングイベント Keynote Speech IIIに
Cognite AS 共同創業者兼CEOの ジョン・マーカス・ラービックが登壇しております。
是非ご視聴ください。
https://www.ceatec.com/ja/
https://www.ceatec.com/ja/conference/conference01.html#openingday
尚、Keynote自体は10月15日に既に開催されておりましたが、アーカイブはご覧いただけます。
取材・文:上阪 徹
撮影:刑部 友康
編集:丸山 香奈枝
徳末 哲一氏
日本IBMでキャリアをスタートし、主に欧米のIT企業の日本法人立ち上げのスペシャリスト。スタンフォード大学大学院コンピュータサイエンス修士。
平林 良昭氏
米国大学を卒業後、ベリサイン等の外資系ベンダーで営業の要職を務めてきた。前職はMapR Technologiesの日本法人のカントリーマネージャー。
設立以来、Cogniteは製造業のデジタルトランスフォーメーションを支援し続けています。私達は製造業におけるデータの活用を実現するために、ロボットや3Dデータ、その他現場のセンサーデータなどを統合し、関連付け(コンテキスト化)を行うソリューションを提供しています。製造業のお客様と協力して、コンテキスト化されたデータをお客様へ提供し、お客様がデータの活用によって価値を生み出すことを目指しています。