※インタビュー当時の役職
働く場所から生まれる発想やワークスタイルがある
世界有数のビジネスエリアである丸の内に位置する「EGG JAPAN」。
国内外の成長企業を対象とした事業開発支援付サービスオフィスであり、数々の企業がここを拠点に成長を遂げている。その中で、目覚ましい勢いで躍進しているスタートアップ企業2社の代表に、働く環境の重要性を聞いた。
「人」という強みを活かし独自性で勝負する
成長の原動力となっている強みとは何でしょうか。
原沢:
DataRobotは「AIの民主化」を掲げ、機械学習を自動化するツールを提供している米国企業です。私は20年以上前からデータ関連の仕事をしていますが、データと言えばこれまではそれを集めて見える化やビジネスインテリジェンスツールを使うのが主流でした。しかし、データ活用のゴールは「過去を見る」ではなく「未来を予測する」ことだと考えていました。例えば、商品の購買層や作るべき製品数など、ビジネスは先を予測して動くものです。その予測は今までは人間の経験に基づいて行われてきましたが、DataRobotはビッグデータをもとにAIの技術を使って予測モデルを誰にでも簡単に作ることができます。この事業こそ「自分が求めていたものだ」と確信し、日本オフィスの開設に参画しました。
井田:
Nautoは、テクノロジーとデータのプラットフォームを使って「安全で効率的なトランスポーテーションを実現する」ことをミッションとする米国の会社です。現在、様々なスタートアップや自動車会社が自動運転車の開発を進めてはいますが、現在の車もあと数十年は利用されるはず。そこでNautoは、将来の自動運転に向けての技術開発と今日のドライバーの安全のためにAIを積んだドライブレコーダーを開発・生産・販売する事業を行っています。もともと私は自動車会社にいましたが、「自動車業界に変革が起きるのでは」という肌感覚があり、会社を退社して渡米。シリコンバレーで「自動車×テクノロジー」の可能性を探る仕事に携わった後、Nautoに入社しました。日本支社の設立にあたっては、シリコンバレーのテクノロジーを使って日本の基幹産業である自動車に何か貢献したいという思いがありました。
原沢:
たくさんありますが(笑)、まずDataRobotには世界でトップクラスのデータサイエンティストが集まっているということ。実はデータサイエンティストの技術を競う「Kaggle(カグル)」というコンペティションがあり、米国本社には、総合ランキングで1位になったメンバーを複数含む上位入賞者が多数います。社員のデータサイエンティストの知識をソフトウェアに組み込み、誰もが簡単に精度の高い「予測モデル」を自動作成できる製品を実現しました。まさに「AIの民主化であり、それが一番の強みです。実は、その製品を初めて見た瞬間、鳥肌が立ちました。「5年先にはこんなことができるかな」と考えていたことを目の前に見せつけられた感じで、衝撃を受けましたね。
井田:
弊社もいろいろありますが(笑)、ひとつは人です。ディープラーニングやコンピュータービジョンというNautoのコアな技術に対応すべく、大手検索エンジンなどから集まったトップクラスのエンジニアが強みの源泉になっています。2つ目は、将来の自動運転向けの技術開発と並行し、そこから抽出した先進技術を取り入れたAI搭載のドライブレコーダーを今日のドライバーに提供するという2つの時間軸で事業展開していること。3つ目はスピードです。大きな企業がものづくりでは長い期間をかけて商品企画を行うのに対し、弊社はお客様がベネフィットを得られるものをいち早く市場に出し、お客様の変化するニーズに応えて更に進化させていくというスタンス。自動車業界の中で、クイックに動けるのは大きな強みです。
オフィスで会話することで新たなアイデアが生まれる
お二人とも多様な働き方を尊重されているようですが、オフィスの有益性というのはどういったところで感じていますか。
原沢:
そもそもチームをマネージしようという気はないんですね。というのも、EGG JAPANに最初にオフィスを構えてから1年半で今は19名になりましたが、メンバーは時間と労力を惜しまずに探し当てた人ばかりです。製造やマーケティングに携わっていた人、米国の大学で機械学習を教えていた人など前職は様々ですが、各々が自分でマネージでき、自分なりの働き方を見つけています。結束力が弱いようにも見えますが、あるメンバーがこう言いました。「うちは一見バラバラですが、向いている方向は一緒ですね」と。それで気づいたのですが、自分が理想とするチームのあり方とは、このスタイルなんですね。
井田:
弊社も人集めには苦労しましたが、納得できる人材を8名集めることができました。重視したのは、スキルや経験に加え、「パッション」があるかどうか。これは仕事をする上でとても大切ですし、パッションがある人はマネージする必要がありません。ただ、私なりに2つのキーワードをマネージメントの基本としています。ひとつは「リスペクト」。成功体験のある人ばかりなので、働く場所もその人のやりやすいところでいい。それぞれのワークスタイルを尊重しています。もうひとつは、その裏返しとなる「アカウンタビリティー」。ボトムのアカウンタビリティーを明確にしておくことは、ビジネスを進める上で重要です。
原沢:
人それぞれで働き方は違うはずなので、仕事に集中したいとか子どもが風邪だから家で仕事をしたいなど、時と場合によってはリモートワークを認めています。ただ、オフィスは絶対に必要です。とくに何かを始めようとする時は、人が集まり、会話する中から新しい発想やアイデアが生まれてくる。チームが同じ方向を向いてコミュニケーションする場として、オフィスは不可欠です。
井田:
よくワーク・ライフ・バランスと言いますが、弊社はワーク・イズ・ライフの人がほとんど。働くことが生きることでもあるので、楽しくないといけない。それにはテンションが上がることが大切で、そのポイントとなるのは人と場所です。楽しく働けるメンバーと、ランチの美味しい店があってアクセスのいい便利な場所で働く。それはクオリティ・オブ・ライフに直結するので、オフィスの果たす役割は大きいですね。
ハードとソフトの両面でビジネス拡大をサポート
実際に入居してみて、どのようなメリットがありましたか。
原沢:
決め手は、一緒に事業を立ち上げたデータサイエンティストのシバタアキラ氏の分析です。彼は日本でオフィスを探す際に、弊社のパートナー企業はどこにプロスペクト、いわゆる見込み客がいるかというのをマップにプロットして分析しました。結果は、「感度の高いお客様は丸の内周辺に多数いる」ということで、以前より存在を知っていたEGG JAPANを選びました。
井田:
オフィスを探して幾つか見た中で、EGG JAPANのご担当の方が親身になって我々のビジネスを応援してくれようとしていることが伝わってきました。それが入居を決めた理由ですね。
原沢:
事業を始める上での一番の弱点は、名前を知られていないことでした。自社の製品に自信はあるものの知名度も信用度もゼロのところから、どうビジネスにつなげていくか。そこは新丸ビルのブランド力に助けられました。実際に名刺を交換すると、「新丸ビルなんですか!」と驚かれ、とても信用を得やすくなりました。また、EGG JAPANのイベントスペースも魅力です。だいたい週に1回はユーザー会やパートナー会、プロスペクト会など何らかのイベントを開催しています。キッチンがあるので、イベント後にカクテルパーティを行うこともでき、人数と予算を伝えればすべての手配をお願いできるので重宝しています。大阪や名古屋からいらっしゃるお客様も多いのですが、目の前が東京駅なので安心してご参加いただける。こうしたイベントを通して会社をアピールし、ビジネスを活性化しています。ビジネスの中心地である丸の内、しかも新丸ビルにオフィスを構えたことが、事業の成長につながっていると思います。
井田:
EGG JAPANは場所や環境、アクセスもよく、施設も充実しており、三菱地所の運営という信用力もあるので、オフィスとしてのレベルが高い。ビジネスサポートの面でも潜在顧客のほか、こちらが望む知見を有する方を紹介してくださったりとネットワーク作りに手を貸していただいています。実際にお会いしてビジネスにつながったケースも何件かあります。スタ-トアップの会社を大切に思い、手厚く支援していただけるので心強いですね。これからは、できれば他の入居企業とも横の連携を図っていきたいと思っています。
本内容は日経ビジネスアソシエ2018年8月号内から抜粋し、再編集したものです。
無断転載を禁止します。
原沢 滋氏
University of California, Berkeley 校卒業後、日本オラクル社を経て、エクスペリアン・ジャパン、日本ネティーザ株式会社、DataStax社等で日本の市場開拓などを担当。IBM社のネティーザ社買収に伴い、日本IBMに移籍。ビッグデータ・アナリティクス部を率いる。2016年よりDataRobot社のビジネス開発を担当し日本市場の事業開発に注力
2012 年に米国のデータサイエンティストが創業。スキルレベルや機械学習の経験を問わず、あらゆる人が正確な予測モデルを構築し、ビジネスに展開できる機械学習のプラットフォームを提供。日本ではすでに多くの企業が利用を始めている。2016年12月にEGG JAPANに入居し、DataRobotの日本オフィスを開設
https://www.datarobot.com/jp/
井田 哲郎氏
大阪大学卒業後、2006年トヨタ自動車株式会社に入社。中南米地域の販売戦略を担当。2014年University of California, Berkeley校にてMBA取得を経て、2016年シリコンバレーのスタートアップ「Beepi」にて、唯一の日本人としてオンライン中古車マーケットプレースの立ち上げに参画。2017 年「Nauto」の米国本社へ参画。同年6 月に日本支社設立と同時に帰国し、日本代表に就任
2015 年に米国カリフォルニア州・パロアルトで起業したスタートアップ。人工知能(AI)を利用してドライバーの運転状況などをリアルタイムで学習するシステムを開発。システムより収集したデータ・分析を活用し、自動運転の安全性向上を目指す。2017 年6 月に日本支社を設立し、EGG JAPAN にオフィスを開設
https://www.nauto.com/