EGG図解制作過程
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画家の塩谷歩波氏が、5ヶ月の時間をかけてEGGの建物を図解しました。
塩谷氏は、大学時代に建築学科を専攻し、卒業後は設計事務所に就職するも体調を崩して休職。休職期間中に偶然出会った銭湯の魅力に感動し、銭湯の絵を描き始めたことから”番頭兼イラストレーター”として高円寺の銭湯・小杉湯に転職しました。2019年には銭湯の絵をまとめた書籍「銭湯図解」を出版し、『情熱大陸』や『美の壺』など各種メディアに取り上げられています。現在は小杉湯を退職して、画家として銭湯に限らず様々な建物の絵を描いており、2023年にEGGの9・10階のイラストを担当しました。
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記事執筆・図解制作
画家:塩谷歩波
図解制作への思い
スタッフのみなさんの熱い思いを受け取り、ただ素敵な空間を描くだけでなく、EGGを作っている方々の思いや、EGGの居心地の良い空気感、過ごしている方々の表情までを描いた一枚にしたいと改めて思いました。
現地でお話を伺った後に数百枚の写真撮影を行い、早速制作に取り掛かりました。
1:下書き
私のイラストは「アイソメトリック」という建築図法に則っています。簡単にいうと、平面図をひしゃげさせて高さを描いたような描き方で、平面図と同じく縮尺が決まっています。今回はいつもより建物が大きかったので、縮尺を1/100に定め、図面を描くようにコピー用紙に作画していきます。
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作画はいつもフリクションペンを使っていて、建物や家具などで色分けをしながら描いています。
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気づくとA3用紙を2枚並べても足りないほどの大きさに。裏面をマスキングテープで繋ぎながら全体を描いていきます。
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ひととおり建物を描けたので、スキャンしてデータに変換しました。これからipadのソフトで人や家具など細かいものを描き入れていきます。以前はアナログで全て描いていましたが、細かすぎて紙が破れてしまったので、建物以外は極力デジタルで作画しています。
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ラウンジを中心に人と家具を描きました。今回は同じ机や椅子が続いているので、家具はできる範囲でコピペをしています。人もいくつかコピーをしていますが、ペン入れの際に一人一人描き分けます。
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EGGから見える東京駅も描いてほしいというご要望でしたが、図解と同じ角度の東京駅の資料がなかったため、ペーパークラフトのpdfをダウンロードして作成し、似たアングルを参考にしました。
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下書きが完成しました。ここまでおよそ1ヶ月ほど。この後水彩紙に書き写すため、下書きを印刷しました。下書きが終わった段階で大きさがほぼ決まるのですが、今回は幅1m10cmほど。市販にはない水彩紙を特別に注文しました。
2:ペン入れ
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トレース台の上に置いて、下から透ける線を頼りに耐水ペンで線をなぞっていきます。左下だけ色があるのは、この紙の色味をチェックするため。
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端からコツコツと描いていきます。
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完成です。できた作品は大きなボードに裏打ちし、今後はイーゼルに乗せて作業を行います。このイーゼルも今回のために注文しました。
3:着彩
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こちらも端からゆっくりと塗っていきます。ガラス越しの人は輪郭線を鉛筆で描いてぼんやりとした表情にしています。また、曇りガラスは上からホワイトを塗り重ねてさらに薄い印象にしました。
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オフィスエリアの半分まで塗れました。
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おおよそ半分。塗り始めてから10日経ちました。
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東京駅も丁寧に描きこんでいきます。
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完成です。取材からおよそ3ヶ月ほど時間をかけて描きました。
9階も同様に、下書き→ペン入れ→着彩の順で進めてまいりました。
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9階、10階合わせておよそ5ヶ月かけて制作いたしました。通常であれば一枚あたり一ヶ月程度なのですが、建物の規模が大きく、また一人一人の様子までをつぶさに描くことでいつも以上に制作に時間がかかってしまいました。お待たせしてしまい申し訳なさを感じていましたが、絵をお渡しした時に「すごい!」「いつまでもみていられますね」と食い入るようにじっとご覧になっている姿をみて、よかった…と心底ホッといたしました。
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無事に額装も終えて、現在EGG10階のオフィスエリアの入り口脇と、9階のテーブルサッカーゲームの前に展示されています。画面だけではお伝え出来ないほど細かいイラストなので、ぜひ現地でご覧いただけますと嬉しいです。
皆様の思いを伺い、そして何度もEGGにお伺いすることで、建物だけでなくそこに流れる空気感をも内包した絵となったかと思います。この絵がEGGの皆様の今後のご活躍の一助となり、過ごされている方の目を和ませることができることを、願っております。
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設計事務所、高円寺の銭湯・小杉湯を経て、画家として活動。
建築図法”アイソメトリック”と透明水彩で銭湯を表現した「銭湯図解」シリーズをSNSで発表、それをまとめた書籍を中央公論新社より発刊。レストラン、ギャラリー、茶室など、銭湯にとどまらず幅広い建物の図解を制作。TBS「情熱大陸」、NHK「人生デザイン U-29」数多くのメディアに取り上げられている。2022年には半生をモデルとしたドラマ「湯あがりスケッチ」が放送された。
著書は「銭湯図解」「湯あがりみたいに、ホッとして」
好きなお風呂の温度は43度。